やくー

薬学部5回生によるブログです。

肝血流律速型薬物と肝代謝律速型薬物の違い

肝血流律速型薬物、肝代謝律速型薬物の違いを分かりやすく解説します。

リアランス(CL)とは

リアランス(CL)とは、1分間に代謝・排泄される薬物を含む血液の量です。

 

公式ではこのように表せます。

CL=(-ΔX/Δt)/C
X:体内から処理される薬物量
t:時間
C:薬物血中濃度

 

この公式の意味を理解するために、例を使って説明します。

 

  • 体の中の血液は全部で5Lで、1分で5Lが体内を1周するとします。
  • 5L中に薬物が5000個あるとします。

薬物は血液1mL中に何個あるのかというと、5000個÷5L=1個/mLで、血液1mL中に1個あると分かります。

つまり、C:薬物血中濃度=1個/mLです。

 

では、5000個のうち、1分間に10個が代謝されたとすると、クリアランス(CL)はいくつになるのでしょうか。

1分間に10個が代謝されるということは、
X:体内から処理される薬物量=10個
t:時間=1min
です。

 

リアランス(CL)とは、1分間に代謝される薬物を含む血液の量なので、

10個/min÷1個/mL=10mL/minとなります。

CL=(-ΔX/Δt)/C
X:体内から処理される薬物量
t:時間
C:薬物血中濃度

の公式の通りになりましたね。

 

実際の国家試験の問題では、この公式は使いません。

ですが、なぜ今回説明したかというと、クリアランスの概念を理解してほしかったからです。

リアランスの概念は、

排泄された薬物量を血中濃度で割ると、どれだけの血液(=クリアランス)に含まれる薬物がごっそり排泄されたことになるかが求まるというイメージです。

ポイントは、クリアランス(CL)は血液量を表すというイメージを持っておいてほしいということです。

 

 

全身クリアランス

実際には、薬物がどこで代謝されるかというと、主に肝臓です。

代謝されずに腎臓で排泄されるタイプの薬もあります。

 

なので、全身クリアランスを知るには、肝臓での代謝と腎臓での排泄を足す必要があります。

公式では、

全身のクリアランス(CLtot)=肝クリアランス(CLh)+腎クリアランス(CLr)+その他の臓器でのクリアランス(CLi)

と表されます。

ここでのポイントは、
リアランスは、薬物を含む体液を浄化する全身の処理能力と言うこともできるということです。

 

ではここからは、肝クリアランスについて見ていきます。

 

肝クリアランス

肝臓に流れ込む血液の量(Qh)が多ければ多いほど、薬物がたくさん肝臓を通れるので、肝クリアランス(CL,h)は大きくなります。

よって、公式ではCLh=Qh・Ehと表せます。

CLh:肝クリアランス
Qh:肝血流量
Eh:肝抽出率

Eh=(fh・CLint,h)/(Qh+fh・CLint,h)です。

つまり、CLh=Qh・Eh=Qh・{(fh・CLint,h)/(Qh+fh・CLint,h)}です。

この公式から肝クリアランス(CL,h)が、非結合薬物濃度(fb)、肝固有クリアランス(CLint,h)、血流量(Qh)で決定されることが分かります。

 

一旦、用語の説明をさせてください。

 

肝固有クリアランス

実は、肝臓のクリアランスは、「肝クリアランス(CL,h)」と「肝固有クリアランス(CLint,h)」に区別することができます。

  • 肝クリアランス(CL,h)は、実際に発揮した代謝の能力
  • 肝固有クリアランス(CLint,h)は、肝臓がもともと持っている代謝の能力

です。

 

それでは、CLh=Qh・{(fh・CLint,h)/(Qh+fh・CLint,h)}から分かるように、肝固有クリアランス(CLint,h)が血流量(Qh)と非結合薬物濃度(fb)の影響を受けて、肝クリアランス(CL,h)となる理由を説明します。

 

肝血流律速型薬物

肝固有クリアランス(CLint,h)に対して肝血流量(Qh)が少なすぎる*1と、本来の肝臓が持つ肝固有クリアランス(CLint,h)を発揮できず、肝クリアランス(CL,h)が小さくなってしまいます。

よって、先ほどCLh=Qh・{(fh・CLint,h)/(Qh+fh・CLint,h)}だった公式のQfが限りなく0に近づく*2ことで、CLh=Qhとなり、肝血流量のみで肝クリアランスが決定できるようになります。

このパターンを肝血流律速型薬物(肝血流量依存性薬物)といいます。

 

 

代謝律速型薬物

逆に肝固有クリアランス(CLint,h)に対して肝血流量(Qh)が多すぎる*3と、代謝が追い付かないため、肝血流量(Qh)によらず肝クリアランス(CL,h)が決定できるようになります。

先ほどCLh=Qh・{(fh・CLint,h)/(Qh+fh・CLint,h)}だった公式のCLint,hが限りなく0に近づく*4ことで、CLh=fb・CLint,hとなります。

このとき肝クリアランスに影響を与える因子は、式から分かる通り、非結合薬物濃度(fb)です。

肝臓に流れ込む薬物がタンパク質と結合している「血漿タンパク結合型」だと、薬物は代謝されないため、血漿タンパク質と結合しているかどうかを示す非結合薬物濃度(fb)が重要な因子となります。

このパターンを肝代謝律速型薬物(肝代謝能依存性薬物)といいます。

 

まとめると、

  • 肝クリアランス(CLh)は、肝血流量(Qf)と非結合薬物濃度(fb)の影響を受ける
  • 肝固有クリアランス(CLint,h)>>肝血流量(Qf)なら肝血流律速型薬物であり、肝クリアランス(CLh)の公式はCLh=Qh
  • 肝固有クリアランス(CLint,h)<<肝血流量(Qf)なら肝代謝律速型薬物であり、肝クリアランス(CLh)の公式はCLh=fb・CLint,h

がポイントです。

国家試験では、肝クリアランスの公式の2パターンへの分け方は、肝抽出率(Ef)の値から判断します。

  • 肝抽出率(Ef)が0.7以上なら、肝固有クリアランス(CLint,h)>>肝血流量(Qf)で肝血流律速型薬物、CLh=Qh
  • 肝抽出率(Ef)が0.3以下なら、肝固有クリアランス(CLint,h)<<肝血流量(Qf)で肝代謝律速型薬物、CLh=fb・CLint,h

この2パターンはそれぞれどんな薬物が該当するかを覚える必要があります。

覚え方はこちらをご覧ください。

yakumedical.com

 

間違っているところ、分かりにくいところがあれば、おっしゃってください。

*1:教科書には、肝血流量(Qh)に対して肝固有クリアランス(CLint,h)が大きいと書かれています

*2:lim Qf→0

*3:教科書には、肝血流量(Qh)に対して肝固有クリアランス(CLint,h)が小さいと書かれています

*4:lim CLint,h→0