― ブルース有機化学の分厚さに挫けないために ―
こんにちは、薬学部1回生のやくーです。
有機化学の授業では「ブルース有機化学」を買わされたけれど、値段も重さもなかなかのインパクト……。
しかも、知りたい情報を探すだけでひと苦労ですよね。
そこで今回は、テストやレポートでよく出る「命名法」に話題を絞り、最短ルートで理解できるようにまとめました。
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慣用名とIUPAC名の違い
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アルキル基のバリエーション(n、iso、sec、tert)
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二重結合・三重結合・官能基が絡む複合ルール
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語根表一覧
最後に、読んだ内容をすぐ試せるワークシートも用意したので、どうぞ最後までお付き合いください。
命名法とは
化合物は数えきれないほど存在します。
いちいち丸暗記していたらパンクするので、世界共通の「組み立てルール」が定められています。
国家試験で出るのはほぼIUPAC名ですが、慣用名が教科書や論文に登場することも多いので違いは押さえておきましょう。
命名法の基本ルール
まずは、基本ルールをおさらいしましょう。
置換基+アルキル基+官能基
置換基、アルキル基、官能基の順番で書きます。
例
- (CH3)2CHCH2OH→ 2-Methyl-1-propanol
- CH₃CH₂NH₂ → ethylamine
アルキル基が複数ある場合
アルキル名をアルファベット順に並べる。
三つ以上のアルキル基が付く場合も同じ並べ方で OK。
例
- CH₃CH₂OCH₃ エチルメチルエーテル
- CH₃NHCH₂CH₂CH₃ メチルプロピルアミン
ハロゲンは置換基
ハロゲン名を前に置きます。
例
・CH₃CH₂Br → 臭化エチル
・CH₃Cl → 塩化メチル
CH₃(メチル) | CH₃CH₂ (エチル) | CH₃CH₂CH₂ (プロピル) | CH₃CH₂CH₂CH₂ (ブチル) | |
OH (アルコール) |
CH₃OH | H₃CH₂OH | CH₃CH₂CH₂OH | CH₃CH₂CH₂CH₂OH |
NH₂ (アミン) |
CH₃NH₂ | CH₃CH₂NH₂ | CH₃CH₂CH₂NH₂ | CH₃CH₂CH₂CH₂NH₂ |
Br (臭化) | CH₃Br | CH₃CH₂Br | CH₃CH₂CH₂Br | CH₃CH₂CH₂CH₂Br |
Cl (塩化) | CH₃Cl | CH₃CH₂Cl | CH₃CH₂CH₂Cl | CH₃CH₂CH₂CH₂Cl |
I (ヨウ化) | CH₃I | CH₃CH₂I | CH₃CH₂CH₂I | CH₃CH₂CH₂CH₂I |
n / iso / sec / tert
接頭語 | イメージ | 例 |
---|---|---|
n- | 直鎖(normal) | n-ブチル基 |
iso- | 終端から1炭素手前にメチル分岐 | イソプロピル基 |
sec- | 置換基が第二級炭素に結合 | sec-ブチル基(唯一例外的に許可) |
tert- | 置換基が第三級炭素に結合 | tert-ブチル基 |
ポイント
-
イソプロピル基と sec-プロピル基は同じ構造を指すので、名前はイソプロピルに統一。
- ペンチル以上もsec-を付けると複数構造が成立してしまい、一意に決まらないため名前はイソプロピルに統一。
- つまり、secの表記は、ブチル基のみ。
CH₃(メチル) | CH₃CH₂ (エチル) |
CH₃CH₂CH₂ (プロピル) |
CH₃CH₂CH₂CH₂ (ブチル) |
CH₃CH₂CH₂CH₂CH₂ (ペンチル) |
|
n- | CH₃- | CH₃CH₂- | CH₃CH₂CH₂- | CH₃CH₂CH₂CH₂- | CH₃CH₂CH₂CH₂CH₂- |
イソ | ![]()
|
||||
sec- | |||||
tert- |
二重結合・三重結合の呼び方(慣用名)
-
H₂C═CH₂ → エチレン
-
CH₃CH═CH₂ → プロピレン
-
HC≡CH → アセチレン
-
CH₂═CH─(置換基) → ビニル基
-
CH₂═CHCH₂─ → アリル基
例
-
CH₃CH₂C≡CH エチルアセチレン
-
CH₃C≡CCH₂CH₃ エチルメチルアセチレン
IUPAC命名法ステップ・バイ・ステップ
覚え方は「鎖を探す→番号を振る→置換基を書く→語尾で機能を示す」の4段階です。
-
最長鎖を決める(同長なら置換基が多い方)
-
端から小さい番号になるように番号付け
-
置換基をアルファベット順で列挙
-
同じ置換基が複数なら di, tri, tetra…
- 数字と名前はハイフン、数字同士はカンマで区切ります。
例 2,3-dimethylbutane
鎖を探す
- 官能基を持つ鎖を探す。
- 官能基がなければ、鎖が長くなるように選ぶ。
- 同じ長さの鎖なら、置換基の多い鎖を選ぶ。
番号を振る
番号の振り方の優先順位は、官能基>置換基>二重結合、三重結合です。(一部例外あり)
官能基
- 優先順位(高→低)
COOH > C=O > CHO > OH > NH₂ - 鎖番号は優先基に近い方から付く
- 二重結合、三重結合の位置が大きい鎖番号になっても良いので、官能基の優先順位に従って鎖番号を付ける。
置換基
- 置換基が小さい番号になるように番号付け。(それでも決まらなければ、置換基のアルファベット順が早い方から番号付け)
アルケン・アルキン
-
二重・三重結合の開始炭素が小さい番号になるように番号付け
-
同じ場合は 3-methylhex-1-en-5-yne のように二重結合を優先する。
環状化合物
- 置換基番号が最小になるように番号付け
例
〇 1,2,4-Trimethylcyclohexane
✕ 1,3,4-Trimethylcyclohexane
環状アルケン
- 二重結合が 1,2 になるように決める
- 二重結合から一番近い置換基が小さい番号となるよう番号付け。
例
〇 1,6-dimethylcyclohexene
✕ 2,3-dimethylcyclohexene
置換基を書く
- 置換基をアルファベット順に順に書く。
- 接頭辞 di- tri- tetra-、sec- tert- は無視して比較する。
つまり、di>triは無視して、ethly>methylより、triethyl>dimethylです。
- iso- は無視されないので要注意。
- 複合置換基の中に含まれる di- tri- は無視せず比較。
例:m>tなので、dimethyl-(3,5,5-triethyl-hexyl)-amine
- N-○○ylのNの文字は無視する。
語尾で機能を示す
官能基
語尾で優先順位が一番高い官能基を示し、他の官能基は置換基として書く。
例
- 3-hydroxybutanoic acid
(COOH が主機能、OH は置換基なので hydroxy-)
官能基 | 一番最後に書く | 置換基として命名する |
アミノ基 | N-○○-数字-○○amine | |
ヒドロキシ基 | ol | hydroxy |
アルデヒド基 | al | hydroxy |
ケトン基 | one | oxo |
カルボキシ基 | oic acid | |
エーテル | oxy | |
エポキシド | oxide(慣用名はoxirane) | |
アルケン・アルキン
-
語尾を -ene, -yne に変更
- ene, yneの後にまだ続くときは、最後のeがなくなり、en~,yn~となる。
環状化合物
- cyclo~aneと表記
環状アルケン
- cyclo~eneと表記
アミン名はアルキル名との間に空白を入れない
例
- methylamine
一方、アルコール・ハロゲンは空白を挟む。
例
- ethyl alcohol
- ethyl chloride
英語名・語根早見表
炭素数 | 語根 | 例(アルカン) |
---|---|---|
1 | meth | methane |
2 | eth | ethane |
3 | prop | propane |
4 | but | butane |
5 | pent | pentane |
6 | hex | hexane |
7 | hept | heptane |
8 | oct | octane |
9 | non | nonane |
10 | dec | decane |
置換基の数 | 接尾語 | より大きな くくりが必要な時 |
1 | (mono) | |
2 | di | bis |
3 | tri | tris |
4 | tetra | pentaris |
置換基 | IUPAC命名法 | 慣用名 |
Cl | chloro | chloride |
Br | bromo | bromide |
F | fluoro | fluoride |
I | ido | idide |
3問だけ演習コーナー
ちょっと一休みがてら、次の構造を IUPAC 名で書いてみましょう。
-
CH₃CH₂CHClCH(CH₃)₂
-
HC≡CCH2CH2CH2OH
- (CH₃)₂CHCH2COOH
解答例は記事の一番下においたので、考えてからスクロールしてくださいね。
まとめとおすすめ教材
命名法はルールを掴んでしまえば、実はパズル感覚で楽しくなります。
もしブルース有機化学の厚さに心が折れそうなら、「よくわかる化合物命名法」もおすすめ。
わかりやすくコンパクトに解説されています。
疑問や「こんな問題も載せてほしい」などあれば、気軽にコメントしてください。
一緒に有機化学を攻略していきましょう。
演習コーナー解答
-
3-chloro-2-methylpentane
-
Pent-4-yn-1-ol
-
3-methylbutanoic acid
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この記事が少しでも勉強の時短に役立てばうれしいです。
慣用名
1.命名の基本
2.アルキル基
n
イソ
sec tert
3.矛盾
4.二重結合
5.三重結合
6.アミンは英語名でスペースを空けない
IUPAC命名法
1.アルカン
2.アルケン、アルキン
3.シクロアルカン
4.環状アルカン
5.二重結合と三重結合を両方もつ化合物
6.二重結合や三重結合はなく、OHなどをもつ化合物
7.二重結合や三重結合があり、OHなどをもつ化合物
8.COOH,C=O,CHO,OH,NH₂などが何種類かある場合
9.ハロゲン化物
10.エーテル
11.NHをもつ化合物
12.Nをもつ化合物
13.エポキシド
英語名一覧
命名法とは
何千もの構造単位の名称を覚えるのは大変なので、体系的名称を与える規則が考えられた。次のようになる。
その他の体系的でない名称は慣用名と呼ばれる。
慣用名
1,命名の基本
CH₃OHやCH₃CH₂Brなど、アルキル基と何かで構成されているものの命名。
CH₃(メチル) | CH₃CH₂ (エチル) | CH₃CH₂CH₂ (プロピル) | CH₃CH₂CH₂CH₂ (ブチル) | |
OH (アルコール) |
CH₃OH | H₃CH₂OH | CH₃CH₂CH₂OH | CH₃CH₂CH₂CH₂OH |
NH₂ (アミン) |
CH₃NH₂ | CH₃CH₂NH₂ | CH₃CH₂CH₂NH₂ | CH₃CH₂CH₂CH₂NH₂ |
Br (臭化) | CH₃Br | CH₃CH₂Br | CH₃CH₂CH₂Br | CH₃CH₂CH₂CH₂Br |
Cl (塩化) | CH₃Cl | CH₃CH₂Cl | CH₃CH₂CH₂Cl | CH₃CH₂CH₂CH₂Cl |
I (ヨウ化) | CH₃I | CH₃CH₂I | CH₃CH₂CH₂I | CH₃CH₂CH₂CH₂I |
アルキル基の後に、化合物の種類の名称(アルコールやアミンなど)を付ける。
例 メチルアルコール
エチルアミン
Br,Cl,Iなどはアルキル基の名称の前につける。
例 臭化プロピル
塩化ブチル
ヨウ化メチル
(補足)エポキシドはoxideと最後に書く。
例 ethylene oxide
2,アルキル基
アルキル基と言っても、炭素の数と分岐のパターンで命名が決まっている。
CH₃(メチル) | CH₃CH₂ (エチル) |
CH₃CH₂CH₂ (プロピル) |
CH₃CH₂CH₂CH₂ (ブチル) |
CH₃CH₂CH₂CH₂CH₂ (ペンチル) |
|
n- | CH₃- | CH₃CH₂- | CH₃CH₂CH₂- | CH₃CH₂CH₂CH₂- | CH₃CH₂CH₂CH₂CH₂- |
イソ | ![]()
|
||||
sec- | |||||
tert- |
n
例 臭化n-ブチル
イソ
sec tert
tertは置換基が第三級炭素にくっついている。
3,矛盾
上記の規則と矛盾した命名が2点ある。
secはブチルのみ
アルキル基に二級炭素が3つ以上ある化合物は、secを使った1つの慣用名で2つ以上の構造が考えられるため、secの呼び方をしてはいけないことになっている。
例 塩化sec-ペンチルは間違い
結果、secを使った慣用名はsec-ブチル基のみ。
イソプロピル基とsec-プロピル基は同じ
イソプロピル基とsec-プロピル基は同じものを表す。よってイソプロピル基と呼ぶことに統一されている。
4.二重結合
例 H₂C=CH₂ エチレン
CH₃CH=CH₂ プロピレン
CH₂=C=CH₂ アレン
CH₂=CH- ビニル基
CH₂=CHCH₂- アリル基
5.三重結合
HC≡CH アセチレン
アセチレンにアルキル基がくっついていると考える。
例 CH₃CH₂C≡CH エチルアセチレン
CH₃C≡CCH₂CH₃ エチルメチルアセチレン
6.アミンは英語名でスペースを空けない
アルキル基と、アルコールやハロゲンの間にスペースを空ける。
しかし、アルキル基とアミンの間はスペースを空けない。
例 methylamine
1.アルカン
一番長い鎖が2通りある場合は、置換基が多くなる方を選ぶ。
両末端から数えて置換基がくるタイミングが同じ場合は、次に早く来る置換基の方から番号を付ける。
それでも決まらなければ、アルファベット順で早い方から番号を付ける。
同じ置換基が複数あるときは、置換基の前にジやトリ、テトラを付ける。
このとき、置換基のジ、トリ、テトラでアルファベット順の判断はしない。sec,tertも無視する。イソは無視しない。ただし、( )内である複合基内のジ、トリ、テトラは無視しない。sec,tertは分からない。すみません。
2.アルケン、アルキン
後はアルカンと同じ。
3.シクロアルカン
例 1,2,4は1,3,4より良い。
4.環状アルケン
そのとき、二重結合から一番近い置換基ができるだけ小さい番号となるようにする。 2,3より1,6の方が良い。
後は、アルカンと同じ。
5.二重結合と三重結合を両方もつ化合物
両末端から数えて二重結合または三重結合がくるタイミングが同じ場合は、
次に早く来る二重結合または三重結合の方から番号を付ける。
それでも決まらなければ、二重結合の方から番号を付ける。
後は、アルカンと同じ。
6.二重結合や三重結合はなく、OHなどをもつ化合物
OHは、COOH,C=O,CHO,NH₂でも同じ。
後は、アルカンと同じ。
7.二重結合や三重結合があり、OHなどをもつ化合物
8.COOH,C=O,CHO,OH,NH₂などが何種類かある場合
COOH>C=O>CHO>OH>NH₂となる。
優先順位の高いものの付いている側の末端炭素から番号を付ける。
9.ハロゲン化物
10.エーテル
11.NHをもつ化合物
例
12.Nをもつ化合物
例 N-ethyl-3-hexanamine
アルファベット順で書くとき、Nやdiの文字は無視する。
13.エポキシド
例 2-ethyloxirane
英語名一覧
私の大学では英語名の方が好ましいとされていました。
炭素数 | もととなる部分 | アルカン | アルケン | アルキン | 置換基 |
1 | meth | ane | ene | yne | yl |
2 | eth | ||||
3 | prop | ||||
4 | but | ||||
5 | pent | ||||
6 | hex | ||||
7 | hep | ||||
8 | oct | ||||
9 | non | ||||
10 | dec | ||||
11 | undec | ||||
12 | dodec | ||||
20 | eicos |
aneやene,yneの後にまだ続くときは、最後のeがなくなり、an~,en~,yn~となる。
置換基の数 | 接尾語 | より大きなくくりが必要な時 |
1 | (mono) | |
2 | di | bis |
3 | tri | tris |
4 | tetra | pentaris |
置換基 | IUPAC命名法 | 慣用名 |
Cl | chloro | chloride |
Br | bromo | bromide |
F | fluoro | fluoride |
I | ido | idide |
官能基 | 一番最後に書く | 置換基として命名する |
アミノ基 | N-○○-数字-○○amine | |
ヒドロキシ基 | ol | hydroxy |
アルデヒド基 | al | |
ケトン基 | one | oxo |
カルボキシ基 | oic acid |
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