Wolff Kishner還元はブルースにも載っているのですが、反応機構が省略されている部分があるので、そこをお伝えできたらと思います。
- 反応機構
- 途中の生成物であるイミンで反応を止めること
- Wolff Kishner還元の目的
- 他の反応が使えない理由
をお伝えします。
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1.Wolff-Kishner還元の反応機構、加熱する理由
イミン生成との違い
2.イミンを生成するには?pHがポイントです
3.酸性溶液中でイミンを生成できない理由
Wolff Kishner還元の目的
4.Friedel-Craftsアルキル化反応で直鎖を生成できない理由
5.目的…直鎖のアルキル基をもつアルキルベンゼンをつくる
Wolff Kishner還元は、カルボニル基をメチレン基に還元することができます。
省略しないで書くと反応機構はこのようになります。
shop.jk-sci.comこちらを参考にしました。
Nに付いているプロトンは弱い酸なので、水酸化物イオンがプロトンを引き抜くのに加熱が必要です。
pHを調節し加熱をしないことで、←ここがWolff Kishner還元との違いです。
2段目の2つ目までの反応で止める(イミンを生成する)ことができます。
(一般的にはH₂NNH₂(ヒドラジン)の部分を、RNH₂で表します)
H₂NNH₂ができるだけプロトン化してないこと、
かつ、
HO⁻でなくH₂Oが脱離基となるよう十分な酸が存在していること
この2つを同時に満たすpHにしなければなりません。
できたイミンにH₂Oを加えHClで酸性にすることで、カルボニル化合物に戻すことを考えましょう。
酸性溶液中ではH₂NN⁺H₃が生成するので、イミンを生成することはできません。
Wolff Kishner還元は、直鎖のアルキル基をもつアルキルベンゼンをつくるために使われます。詳しくは次の章です。
ここで、おさえておきたいことは、
Friedel-Craftsアルキル化反応では「直鎖の」アルキル基をもつアルキルベンゼンは生成できないということです。
なぜでしょう。
説明するためにFriedel-Craftsアルキル化反応の例を書きました。
このように
Friedel-Craftsアルキル化反応はカルボカチオン(この場合CH₃CHC⁺H₂)を作ることから始まりますが、
CH₃CHC⁺H₂は第1級カルボカチオンなので、不安定で、実際は存在できません。
そのため、より安定な第2級カルボカチオンになるよう、下のように転移が起きます。
(ただし、上は分かりやすい書き方をしているだけで、実際の転移は下のように、Lewis酸(AlCl₃)との錯体の形で行われます)
以上により、第2級カルボカチオンができるので、その後ベンゼンと反応すると、「直鎖」のアルキル基をもつアルキルベンゼンではなく、分岐したアルキル基となってしまうわけです。
Friedel-Craftsアルキル化反応では「直鎖の」アルキル基をもつアルキルベンゼンは生成できない理由は、
「転移し第2級カルボカチオンができるから」です。
では、どうやって「直鎖の」アルキル基をもつアルキルベンゼンを生成するのか。
→Friedel-Craftsアシル化とその後にWolff-Kishner還元をすることによって生成します。
このようにWolff-Kishner還元を使うことによって「直鎖の」アルキル基をもつアルキルベンゼンを生成します。
補足
Wolff-Kishner還元の利点について補足します。
Wolff-Kishner還元でなくても、Clemmensen還元(Zn(Hg),HCl,△)や、H₂+Pd/Cで可能です。
しかし、H₂+Pd/Cは、ニトロ基をNO₂からNH₂に還元してしまうので、それをしないことがWolff-Kishner還元の利点となっています。
また、直鎖のアルキル基をもつアルキルベンゼンは、Suzuki反応や有機銅アート反応剤との反応ででも生成できます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。